東京工業大学様導入事例:IoT構築
- 関連ソリューション・サービス:
国際通信規格「IEEE1888」を活用し、低コストで開発
電力供給バランスを分析・予測・制御
次世代スマートグリッド研究を支えるITシステム
お客様の課題
- 電力供給をコントロールするための各機器(太陽電池、燃料電池、ガスエンジン、リチウムイオン蓄電池、ビル中央監視システムなど)は、それぞれ異なるメーカーの製品を混在させているため、改修を要する場合には高コストとなってしまう恐れがあった。
- リアルタイムに収集・分析しなければならない研究データ量が膨大で、予測計算式も複雑になり、従来の機器で正確な数値を把握するのが難しかった。
- 複雑な大学ネットワーク環境、各機器のプロトコルなどを把握しながら、最適なシステム要件を見極める必要があった。
解決ポイント
- スマートグリッド管理システム "Ene-Swallow(エネスワロー)"の開発経験を活かし、既存の機器、システムを最大限に利用しながら拡張。国際通信規格「IEEE1888」のメリットを取り入れた新たなITシステムでリアルタイム制御を実現。
- 機器設置工事の段階から参画し、各機器メーカーと連携。複雑な大学内ネットワークにおける機器間の通信状況やプロトコルを把握し、事前疎通試験などを実施したことで工期を短縮。低コスト化にも寄与。
課題と提案
最先端の環境エネルギー研究を支えるシステム開発。
低炭素社会の実現に向けた東工大の挑戦をIT技術でサポート。
近年、よく耳にする「スマートグリッド」。これは、貴重な電力を、高機能な制御装置のネットワークによって分散管理し、効率よく供給しあう次世代電力網のことだ。最近では「HEMS(Home Energy Management System)」や「BEMS(Building Energy Management System)」のように、住宅やビルにおいても電力消費の低減を目的にエネルギー消費量の見える化、最適化が図られている。限られたエネルギー資源の浪費を抑制するだけでなく、余った電力を不足している地域に供給できるなど、スマートグリッドへの期待は大きい。例えば、CO2(二酸化炭素)の排出量削減や、災害緊急時における電力の安定供給にも役立てることが可能とあって、その実用化への取り組みがさまざまなかたちで進められている。
東京工業大学大学院理工学研究科の伊原学准教授もまた、その分野の第一人者として各界から注目を浴びている。氏は太陽光発電をテーマに掲げ、変動が大きい自然エネルギーの需給を安定化させる「スマートグリッド管理システム」を開発。大岡山キャンパス内に建てられた環境エネルギーイノベーション棟(以下、EEI棟)を研究拠点に、太陽電池、燃料電池などの発電情報や建物内の電力消費情報を逐次収集・解析するとともに、設備機器の自動制御をはじめ、実用段階での有効性を検証し続けている。
「2009年、教員約230名からなる環境エネルギー機構の研究拠点として、このEEI棟建設の基本構想がまとめられました。高効率なエネルギー変換を行うための多様な研究と、CO2排出量の削減目標を最大60%に据え、世界でも類を見ない研究棟として2012年に完成しました」
そして、そのEEI棟の頭脳といえるのが、伊原准教授が提唱するスマートグリッド管理システム"Ene-Swallow"である。(*1)NTTデータビジネスシステムズは、このプロジェクトに参画し、現在の第3世代にあたる"Ene-Swallow Ver.3"のシステム設計・開発を担った。
「何もない場所に新しい施設を作り、同じ通信規格を有した設備に統一すれば、スマートグリッドを取り入れた未来型の街づくりは実は技術的にそれほど難しいことではありません。しかし、実際の都市では、建てられた年代が異なる建築が並び、導入している電気機器も多種多様です。このEEI棟でも、太陽光やガスなどの分散発電システムに加え、外部電源との連携も行われています。一方、電力を消費する側としては、空調や照明、ドラフトチャンバーをはじめとする研究用装置など、異なる通信プロトコルを持った機器群が混在しています。さまざまな端末の情報を集約化し、それらのデータに基づき総合的にマネジメントする制御システムの開発が急務だったのです」
EEI棟の屋上や壁面に設けられた約4,570枚にのぼる太陽電池パネルは、光エネルギーを電気に変える変換効率を測定する目的から、あえて6種類にわたるモジュールが採用されている。さらに発電機や蓄電池もメーカーによって設計思想や仕様が違い、通信プロトコルもまちまちだ。それらを一括でコントロールするため、国際通信規格「IEEE1888」を用いてマルチゲートウェイで接続。個別システムに分散していたデータを一元管理し、個別システムの枠を超えたシステムの連携制御を実現した。
*1:伊原 学.スマートグリッド"エネスワロー"と東京工業大学グリーンヒルズ構想. BE 建築設備.65,9,2014,p.70-80.
スマートグリッド管理システム"Ene-Swallow Ver.3"概要
NTTデータビジネスシステムズの評価
前例のない次世代システムを研究室との二人三脚で実現。
それまで培った実績、柔軟な対応力と提案力で諸問題をクリア。
2014年に構築がスタートしたVer.3の開発で、NTTデータビジネスシステムズが果たした役割は多くあるが、その内容と結果を集約すると以下の3つになる。
- ①サーバシステムのサイジングや既存ネットワークの構築などで実績があり、万全な運用や保守体制を提供できた。
- ②プロジェクト開始以前から「IEEE1888」採用を提案。太陽電池の増設、リチウム蓄電池やガスエンジンの導入など、順次拡張が予定されていた各機器のメーカーにも柔軟に対応。プロトコルやシステム構成など最適な提案を行い、安定した高品質なシステムを提供できた。
- ③制御エンジンの開発では、新たに提案のあった予算計測式やシミュレーションなどについて、高度な分析ロジックにも積極的にチャレンジ。限られた予算、工期の中で、最大限の効果を発揮できるシステムの実現を目指した。
「Ver.3には、30分毎の電力予測による"ピークカット制御"と、近い将来起こりうる災害トラブルに備えた"自立運転モード"が追加されています。再生可能エネルギーや化石エネルギーなど、複合型の発電システムがミックスされた環境では必須といえる制御システムなのです」(*2)
とりわけ、EEI棟に機器類を納入するメーカー各社との、スムーズかつ親密な協働が必要不可欠だった。NTTデータビジネスシステムズは、ベンダー全体会議や分科会などにも足繁く出席し、早くから各社との連携を模索。機器の特性を考慮しながら製品仕様やプロトコルを把握し、事前に疎通試験を行うなど、プロジェクトの実現に向けて奔走した。
「EEI棟での研究に参加している企業は現在10社以上にのぼります。企業はビジネス。それぞれに利潤を追求する目的を持ち、相互に開示しがたい情報もあるでしょう。各企業の皆さんには中長期的な展望に立ち、"ここで得た知見が必ずや未来のエネルギー開発に貢献する"という思いを携え、参加いただいています」
その交通整理は中立的な立場として東工大が行ってきたが、難しい調整作業も含め、NTTデータビジネスシステムズの献身的なサポートにはとても助けられた、と伊原准教授は語る。現在、CO2排出量60%削減のみならず、年間電気使用額2000~3000万円削減を目指しているEEI棟。排熱利用や太陽電池パネルの改善による省電力化とともに、この数値目標達成のために、NTTデータビジネスシステムズが開発を担ったVer.3が活躍している。
*2:公開特許公報(A)「JP 2013-162686」、発明の名称:電力供給システム、発明者:伊原 学
将来の展望
さらに進化を遂げていくエネルギー研究。
他大学の研究機関などへの水平展開も視野に。
「IEEE1888」の採用によって長期にわたり蓄積されている電力関連データは、もはや伊原准教授の研究に欠かせないものとなっている。将来的には雲の発生予報といった外部気象データやセンシングデータと連携することで、より精度の高い予測制御も可能になる。 「例えば、上空にレーザーを照射して、局地的な雲の動きを予測する技術が既に開発されています。ローカルなデータを用いて、より細密な電力需給予測を行うなど、"Ene-Swallow"にはまだまだ進化の余地が残されています。NTTデータビジネスシステムズとの協働によって、さらなる展開を考えていきたいですね」
伊原准教授の研究は、東南アジア諸国をはじめ、世界各国の研究機関や大学から熱い視線を集めている。国内では研究棟建設を検討している大学もあり、実現すれば伊原研究室のテクノロジーやノウハウが惜しみなく提供される予定だ。分散型システムによって都市と一体化する、未来型のエネルギー環境。その実現はもう目前に迫っている。
※掲載している情報は、取材時点(2015年1月27日)のものです。
東京工業大学
- 事業内容
1881年創立の理工系総合大学。大岡山、すずかけ台、田町のキャンパスに3学部23学科、6研究科(大学院)が設置され、約1万人の学生が学んでいる。 - 住所
〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1(大岡山キャンパス) - URL
http://www.titech.ac.jp/